このブログでは、「Chainalysis 2021年NFT市場レポート」のプレビューをご紹介します。レポートの全文はこちらからダウンロードください。
非代替性トークン(NFT)の人気は過去1年で急上昇しています。NFTとはブロックチェーン技術を基盤とするデジタルアイテムで、従来の暗号資産のように互換性のある単位でなく、固有の単位を使用します。NFTは、ブロックチェーン上に保存可能(大半のNFTプロジェクトはEthereumブロックチェーン上に構築)で、保存されたデータは画像、動画、音声などのメディアを含むファイルと関連付けできます。また、有形の物品との関連付けが可能な場合さえあります。NFTの所有権は通常、トークンが関連付けられたデータ、メディア、オブジェクトの保有者に対して与えられ、専用マーケットプレイス(本レポートで詳細を後述)で売買されるのが一般的です。
2021年の現時点で、ユーザーは、269億ドル相当以上の暗号資産をERC-721とERC-1155の2つのコントラクトに送金しています。この2つのEthereumスマートコントラクトは、NFTマーケットプレイスやコレクションと関連付けられています。
特に注目されるのが、送金総額と平均取引量の両方が大幅に増加していることです。これは、NFTが新規ユーザーを惹きつけ、資産としての価値を高めていることを示しています。さらに8月最終週から著しい上昇が見られますが、これは、人気の高いNFTクリエーター集団「Bored Ape Yacht Club」が新規コレクションを発表したことがその主因とみられます。NFT投資の価値上昇については、本レポートで詳細を後述します。
大半のユーザーは、取引所で暗号資産を購入するのと同様に、専用マーケットプレイスでNFTを購入しています。OpenSeaなどの多数のNFTマーケットプレイスでは、ユーザーのNFTを預からず、ユーザーが自身のウォレットで直接NFTを取引相手に移転できるようにしています。このマーケットプレイスは、この点で分散型取引所やP2P型取引所と似ていますが、Dapper LabsのようにユーザーのNFTを預かるサービスを提供している業者もあります。OpenSeaは圧倒的な人気を誇るマーケットプレイスであり、160億ドル以上の暗号資産を受け取っています(2021年現時点)。以下のチャートではこれらのマーケットプレイスで取引されたNFTコレクションのうち最も人気があるコレクションを時系列で示しています。
本レポートの調査期間中に最も人気を集めたNFTコレクションは「CryptoPunks」で2021年3月以降の取引高は30億ドルを超えていますが、サービスの開始は2017年と現在のNFTブームよりかなり前に遡ります。興味深いことに、人気が続かなかったものの、短期間で取引高が一気に急増したコレクションがいくつかあります。例えば、Hashmasksの取引高は2021年7月4日の週に3億8,000万ドルを超えました。ところが対象期間の他の週におけるコレクションの最大取引高は9,570万ドルに留まります。対象期間全体の平均週取引高も2,100万ドル弱にすぎません。こうしたパターンはMutant Ape Yacht Clubでも見られます。
NFTユーザーの世界分布を調べるうえでは、人気のあるNFTマーケットプレイスのWebトラフィックデータが参考になります。
中央・南アジア、北米、西ヨーロッパ、中南米を筆頭に、Webトラフィックが多い地域が複数混在していることがわかります。このデータを通して、NFTが従来の暗号資産と同様に世界的に人気を集めていることが分かります。2021年3月以降は、月次Webトラフィックのシェアが40%を超える地域はありません。
NFTマーケットプレイス最大手OpenSeaの分析を通じて、NFT全体の成長について理解を深めることができます。OpenSeaの6,000点を超えるNFTコレクションは売買またはミント(NFTの新規発行・作成)など何らかの形で1回以上取引されています。いずれかの週に1回以上取引されたことがあるアクティブなNFTコレクションの数は2021年3月以降大幅に増加しており、NFT市場での活動が上昇傾向にあることが分かります。2021年3月以降、アクティブなNFTコレクション(任意の週に少なくとも1回の取引が行われたものと定義)の数は大幅に上昇しています。
データによると2021年7月に成長が急速に高まり、10月まで順調に上昇しています。アクティブなNFTコレクションの数は2021年10月24日の週に2,300を突破しピークに達しました。3月初旬のわずか193からの大幅増です。Webトラフィック分析では、米国のOpenSeaユーザー数が世界最大となっています。
暗号資産の中でも際立つNFT取引でのリテール主導
NFT取引の大半はリテール規模(10,000ドル未満相当の暗号資産取引)
このデータから、全取引に占めるリテール取引の割合がごくわずかな従来の暗号資産市場と比べると、NFT市場は、はるかにリテール主導となっていることが分かります。では、NFT投資家は市場でどのような成果をあげているのでしょうか。
NFT投資家の成果:優秀なNFTコレクターになる条件
NFT市場に注目している人は、投資家が新規NFTがミントプロセス中、あるいは別のユーザーからNFTの購入を行い、後に売却して高い投資収益を得ようとしていることが市場活況の一因であることをご存知でしょう。ところが、データによれば、NFTは成功確実な投資にはほど遠く、OpenSeaマーケットプレイスの取引データによると、ミント中に購入され、後にプラットフォームで売却されたNFTのうち利益をあげたのは28.5%にすぎません。一方、同じ期間にセカンダリーマーケット(二次流通)で他のユーザーからNFTを購入し、転売したケースで利益をあげた率は65.1%にのぼります。以下では、NFTコレクターにとってどの手法が成功につながりやすいか、データをもとに分析します。
ホワイトリスト登録が新規公開NFTの取引成功のカギ
NFTの拡大には、何よりもコミュニティと口コミの影響が大きく関わっています。大概、成功しているNFTプロジェクトでは、DiscordサーバーやTwitter上でそれらを応援する熱烈なファンの投稿を多く見かけます。これはシナリオどおりの展開であり、NFTクリエーターは最初のアセットを発表するかなり前から新規プロジェクトの宣伝を始めるのが通例であり、当初からプロジェクトのプロモーションに協力してくれる献身的なコア層のフォロワーを集めます。NFTクリエーターは、見返りにこうしたフォロワーを「ホワイトリスト」に加え、ミント期間中に他のユーザーよりはるかに低い価格で新規のNFTを購入できるようにします。
ホワイトリストへの登録は、単なる見返りに留まらず、投資結果を大幅に向上させます。OpenSeaのデータでは、ホワイトリストに登録されたユーザーが後に新たにミントされたNFTを売却して得た利益率は75.7%と、ホワイトリスト登録を経ずに同様の行動をしたユーザーの20.8%に大差をつけています。それどころか、ホワイトリストに登録されずにミントされたNFTを購入して高いリターンを達成するのはほぼ不可能であることもデータから読み取れます。下のチャートは、新たにミントされたNFTの売却を、初期投資額の倍数で表したコレクターの達成ROI別に区分したもので、ミント期間中に購入しホワイトリストに登録されたコレクターとホワイトリストに登録されずに購入したコレクターの結果を比較しています。
全体的に、ホワイトリストに登録されなかった買い手の78%は売却損を出しており、初期投資額の0.5倍以下の損失を出した買い手の割合は59%にのぼります。一方、ホワイトリストに登録された買い手の78%は売却益を手にしており、初期投資額の2倍以上の利益を出した買い手の割合も51%に達しています。データから明白なように、ホワイトリストへの登録は、NFTプロジェクトの成功に寄与し、早い段階でコミュニティ拡大活動に貢献した人々に大きな報酬をもたらします。
一方、ホワイトリストに登録されない場合、新規公開NFTを購入して利益を出すことは相当困難になります。言うまでもなく、公開後に購入され、まだ売却されていないNFTは上記データに含まれていません。そうしたNFTの中には今後売却益が得られるものもあるかもしれません。つまり、28.5%というミント後に売却して利益を手にした投資家の割合は、いずれ上昇する可能性があります。
NFT市場について、最も成功しているNFTコレクターはどのように高いROIを達成しているのか、ミント取引失敗時の手数料が投資家の収益にどのような影響を及ぼすかといった詳細は、「Chainalysis 2021年 NFT 市場レポート」をダウンロードし、ご覧ください。