2020年末に大きな伸びを示したビットコインやイーサリアム等の暗号資産は、2021年には史上最高値を更新するなど、非常に好調な1年となりました。それでは、暗号資産の価格上昇によって、最も恩恵を受けたのは誰でしょうか?Chainalysisは、昨年に続き今年も、地理的な観点からデータを分析し、国ごとの暗号資産の実現利益に関する比較を行いました。特に今回は、前年とは異なり、分析対象をビットコインに限定せず、Chainalysisが追跡する全ての暗号資産に関する実現利益へと範囲を拡大し、データを分析しました。
国別暗号資産利益の算出:Chainalysisの手法
暗号資産は、その分散化した特性により、地理的な分析を行うことが容易ではありません。しかし、Chainalysisが保有する取引データとウェブ・トラフィックデータを組み合わせることで、どの国が暗号資産のアクティビティに寄与しているかという点を、適切に見積もることが可能となります。
まず、Chainalysisが追跡している全ての暗号資産ビジネスを対象に、全暗号資産のブロックチェーン上のフローをマクロレベルで測定します。次に、引き出し資産および預け入れ資産の価値の差額合計を米ドルで算出することにより、それぞれの資産で得られた総利益を推計します。さらに、各取引所のウェブサイトにおいて各国が占めるウェブ・トラフィックの割合に基づいて、これらの利益(または損失)を国別に分配します。この方法は完璧なものとは言えません。理想的には、サービス単位ではなく、個人またはウォレット単位で利益を計算するやり方が考えられますが、今回のやり方では、特定の国の暗号資産ユーザーの総利益を合理的に見積もることができます。取引データとウェブ・トラフィックを組み合わせるという形態は、Chainalysisが毎年の「Global Crypto Adoption Index(世界暗号資産導入指標)」の計算に使用しているフレームワークと同じものです。
国別暗号資産実現利益(2021年)
Chainalysisが追跡する暗号資産全体で見ると、全世界の投資家が手にした総実現利益は、2020年の325億ドルから、2021年には1,627億ドルへと拡大しています。以下のグラフは、このような利益獲得の上位50ヶ国を示したものです。
2021年 暗号資産総実現利益(推定)
米国が暗号資産から得た実現利益は470億ドルとなり、全体の中で大きな割合を占め、他を引き離しています。さらに、英国、ドイツ、日本、中国と続きます。しかし、昨年同様、暗号資産への全体的な投資パフォーマンスが、従来の経済発展指標の順位を上回っていると思われる国が多数見られます。
- トルコのGDPランキングは、11位となる2兆7,000億ドルですが、暗号資産の実現利益は46億ドルで、6位にランクインしています。
- ベトナムのGDPランキングは、25位となる1兆1,000億ドルですが、暗号資産の実現利益は27億ドルで、16位となっています。
- ウクライナのGDPランキングは、40位の5,760億ドルですが、暗号資産の実現利益は28億ドルで、13位となっています。
- チェコのGDランキングは、47位となる4,600億ドルですが、暗号資産の実現利益は19億ドルで、19位となっています。
- ベネズエラのGDPランキングは、78位となる1,440億ドルですが、暗号資産の実現利益は11億ドルで、33位となっています。
このような傾向は、Chainalysisの「Geography of Cryptocurrency Report(暗号資産の地理学レポート)」の分析結果と一致しています。このレポートでは、送金や通貨切り下げへの対応策として暗号通貨を採用している新興市場国の数を調査しています。
また、中国のアクティビティが、他の国に比べ際立って減少していることも明らかになりました。2021年の中国の暗号資産の総実現利益は、2020年の17億ドルから、51億ドルへと拡大し、年間成長率は194%となっています。これはかなり大きな数字に見えますが、他の国よりも低い成長率となっています。例えば米国の場合、暗号資産による実現利益は81億ドルから470億ドルとなり、その成長率は476%に達しています。他の国の暗号資産の実現利益の伸び率もほほ同様です。例えば、英国は431%、ドイツは423%となっています。中国の成長率の低さは、政府による規制強化後の暗号資産活動の低迷を反映していると考えられます。
国別および通貨別の暗号資産実現利益(2021年)
各国の利益をコインで分類すると、どのような傾向が見られるでしょう?
各国の2021年コイン別暗号資産総利益(推定)
最も注目に値するのが、イーサリアムに関する利益です。イーサリアムの実現利益は全世界で763億ドルに達し、ビットコインの747億ドルを上回る結果となりました。Chainalysisでは、2021年にDeFiが拡大した結果として、イーサリアムの需要が伸びたものと考えています。これは、多くのDeFiプロトコルが、イーサリアムのブロックチェーン上に構築されており、イーサリアムを主要通貨として使用しているからです。ほとんどの国ではこのような傾向が見られるものの、一部例外もあります。例えば、日本ではイーサリアムの実現利益が7億9,000万ドルであるのに対して、ビットコインの実現益が40億ドル弱となっています。
2021年:暗号資産の投資家にとって実り多い年に
Chainalysisによる暗号資産の利益に関する分析結果は、暗号資産の世界を勇気づけ、2021年のエコシステム、特にDeFiの成長を反映した結果となりました。業界が対応すべきリスクは依然として残存していますが、データから見ると、暗号資産価格は上昇を続けるだけでなく、新興国市場におけるユーザーにとって、暗号資産が経済的機会の源泉となっていることが分かります。
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